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 昼下がりの午後。
 平和な村。
 そこに、一軒の大きな大きな工場が建っていた。

「おーい、安飯萬(アンパンマン)〜」
 そんな中、やたらと呑気な声が聞こえてきた。

「わッ、邪無御時三(ジャムおじさん)が来たぁっ!!」
 そして、慌てふためき物陰に隠れる音も。

 邪無御時三と呼ばれた、白いシャツと白いエプロン、そして白いコック帽が印象的な白髪のじーさんが、がさごそと山積みの段ボールの中や背後を調べ始めた。

「ああ、見つけた〜」

 やがて、じーさんは先程安飯萬と呼ばれて過剰に反応していた人──っていうか人間って呼べるものでもない奴──の姿を、段ボール箱の中に見つけた。
 色黒の顔に、赤い鼻と頬。いかにも正義の味方が着ていそーな赤いスーツの中央には、黄色いニコちゃんマークが描かれている。

「確かこの前『今度払いますから!』って言ってたよね〜? いつになったら払ってくれるの? この工場さ〜、サ○プライムローンで建てちゃったからバブルはじけちゃってメチャクチャ困ってるんだよね〜。しかもこの不況でパンは売れないし、作ってもどっかの誰かさんにツケにされた上踏み倒されかけたりして、もう赤字つづきなんだよ」
「はい! 知ってます! 知ってます!! 判ってますから!!! もうちょっと待ってください」
「君の顔が一つ焼かれるごとに、利息がどんどん増えてってんだよ? 判ってる?」

 ──その時だった。

「きゃああああああっ!!」

「!!!」

 突然、どこからともなく悲鳴が聞こえてきた。安飯萬たちは一旦会話をやめ声の聞こえた方を振り向く。

「助けて───!! 安飯萬────ッ!!」

 安飯萬はしめたとばかりにニヤリと笑い、「うっしゃ!!」とガッツポーズをして工場から華麗に飛び立っていった。

「って、ちょ……ちっ、またやられたか」
 邪無御時三はものすごく醜く顔をしかめて舌打ちした。

 ──そう、これは多重債務を皆から背負わされた悲しきヒーロー・安飯萬の話である。

それ逝け! 安飯萬
作: 朝霧 朱音
霧雨 白蓮

安飯萬行進曲(まーち)(フルヴァージョン)

そうだ 嬉しいんだ 生きる喜び
たとえ 借金が かさんでも

何のために稼いで
どんな風に返すのか
答えられないなんて
そんなのは 困る!

金を稼ぐ ことで
熱い心 萌える
だから 君は逝くんだ
微笑んで

そうだ 嬉しいんだ 生きる喜び
たとえ 借金が かさんでも
ああ 安飯萬 易しい君は
逝け! みんなの野望(ゆめ) 護るため

何が君の幸せ
何をして稼ぐ
判らないまま身罷(おわ)る
そんなのは 拒否る!

忘れないで 借金(ツケ)
零さないで 涙
だから 君は 逝くんだ
何処までも

そうだ 恐れないで みんなのために
(あい)と 死ぬ気(ゆうき)だけが マブダチさ
ああ 安飯萬 易しい君は
逝け! みんなの野望(ゆめ) 護るため

期日(とき)は 早く 過ぎる
稼ぐ 金は 消える
だから 君は逝くんだ
微笑んで

そうだ 嬉しいんだ 生きる喜び
たとえ 借金が かさんでも
ああ 安飯萬 易しい君は
逝け! みんなの野望(ゆめ) 護るため

 真昼の閑散とした町中。
 お昼ご飯の時間も過ぎ、会社員はちらほらと職場に戻り始めている。

 そんな中、『背分・入文(セブン イレブン)』という、赤と緑のツートンカラーが眩しいコンビニエンスストアの中にあるATMにて、明らかに怪しい動きをしている人物がいた。

 アフリカ人もこんなに真っ黒くねーよ、って言いたいくらい素晴らしいほど焼けた(っていうかこれは焼けているのか?)顔とボディ、調子でも悪いんかいと言いたいぐらい不自然な紫色の口まわり。背中には子供も騙せなさそうな、ちんけな薄水色の羽。頭には今時こんな泥棒もいねーよっていうような、見事な唐草模様の風呂敷を被っている。

 ……あれっ? コレって人物なのか? あれ?

 まぁ、そうこうしているうちに、そいつはぴたりと動きを止め、あたりをキョロキョロと見回した後、奇声をあげながらコンビニの出入口に向かってダッと駆け出した。

「バイバイ(キン)────!!」

 すると、それに気づいた(普通に気づくよな! 奇声あげたら!)女性店員は、そいつを押さえにかかろうとした。

「ちょっ、お客様!? 先程から不審な動きをなされていましたが、何を──」

 バコッ
「ぐぉふっ!!」

 突然、店員の顔面めがけて青白い物体が飛んできた。

「かはッ、げほっ」
 白い物体にむせる店員を見下すような目つきで眺めながら、さっきのアイツが高笑いをして言った。

「それは井湯曜角宇(イトーヨーカドー)からかっぱらってきた青カビチーズ! 何かの役に立つかと持ってきたけど、まさかここで活躍するとは!」

「てめッ、化粧すんのにどんだけかかったと思ってるんじゃ──!!」

 憤慨する(腹を立てる場所が少しズレてる気もするが)店員を尻目にヤツは再び走り出し、ドアの前で一旦立ち止まる。
 ヤツは店員のいる方を振り向き、ニヤリと不気味な笑みを浮かべてこう言い放った。

「そんじゃ、改めてバイバイ金────♪」

「ちょっ、待てやコラ!!」

 店員の言葉に耳を貸すことなく、そいつはドアから外へ出ようとした。

 女性店員の、助けを求める叫び声がこだまする。

「──そこまでだ!」

 グワッシャアアアアア─────ン!!

 ……唐突に、コンビニの出入口のガラスが割れ、粉塵が舞い上がった。

「お、お前は……安飯萬!!」

 もうもうと立ち込める土煙の中から現れたのは、紛れもない──冒頭で邪無御時三の工場から逃げ出した……ごほん、華麗に飛び立った、あの安飯萬であった。

「そのまま金を渡すんだ!」

 安飯萬のヒーローらしからぬ台詞に、店員はずっこけた。

「……じゃなかった、金を店員に返すんだ!」

「やーだね!」
「待つんだ!」
 逃げ出そうとするヤツを逃すまいと、安飯萬はがしっと首根っこを掴んだ。

「は、放せ!」
 そいつが逃げようとした反動で、頭に巻き付けてあった風呂敷が外れた。

「いっや〜んv

「おっ、お前は……!」

 何故か顔を赤らめるヤツを尻目に、安飯萬は一人驚いたような声をあげた。

「バ、賠菌漫(バイキンマン)じゃないか!! アニメで毎週毎週毎週毎週僕にやられている賠菌漫じゃないかッ!!!」

「……あ、バレちった?」

 そいつ──安飯萬の永遠の宿題……じゃなかった、宿敵の賠菌漫は、呑気にそんなことをいうと、そのまま破壊されたコンビニの出入口から外へ逃亡してしまった。

「バイバイ金〜♪」

しかし、安飯萬はまだぶつぶつ呟いていた。
「まさか……あの賠菌漫がATM強盗をしでかしていたなんて……!! しかもテキトーにふら〜っときたコンビニで、まさか犯行現場に出くわすとは………!」

「じゃあ、さっきの悲鳴がここから聞こえてきたから、ここへ来たわけじゃないんだ?」

「いや、あの悲鳴は僕のスーツの胸部についているニコちゃんマークのところに密かにテープレコーダーがセットされていて、それを叩くとテープが再生され、悲鳴が発せられるという仕組みなんだ──ッ!! やー、僕って天才☆」

「へーえ。それで借金の取り立てを免れたってことか」

「げッ!!」

 安飯萬が振り向くと、背後には宙に浮く邪無御時三の姿があった。

「もう来たのかよ!! 意外と脚早ぇなあのジジィ!! てかアイツどうやって浮いてるんだよ!! つかどーやってコンビニに入ってきた!!」

「安飯萬……? あとでた〜っぷりと話を聞かせてもらおうか……?」

「やっ、やべッ、この仕組みがとうとうバレちまった!! あと2、3回くらいは騙せそうだったのに!! どうしよう……これからどうしよう」
「何ぶつぶつ独り言言ってんだよ!! さっさとやっつけてこいよ!! こちとらお前の返済を待ってんだからよ!!!」

「おやおやお二人さん、仲間割れはよくありませんぜ〜♪ そんなてめーらには、これをくれてやるぜ!」

 と言って、賠菌漫は数メートル離れたところから青カビチーズを投げつけた。

「うわぁ!」
 その青カビチーズは安飯萬の顔面にモロ命中した。  パラ、と青カビチーズの塊片がむなしく地面に落ちる。

「……かっ、顔がカビて元気が出ない………っ!!」

「おい! またかよコノヤロー!! 一体顔を焼くのに俺がどんだけ苦労してると思ってんだよ! つーかヒーローなら華麗に避けろよ!」
 こめかみに青筋を立てた邪無御時三は、安飯萬のカビが生えた顔をがしっと掴んだ。

「え、ちょっ、邪無御時三?」

「てぇえりゃあああああ─────ッ!!」

 そのまま安飯萬の頭をむしりとり、賠菌漫めがけて投げつけた。

「え?」

 思いもよらぬ邪無御時三の攻撃を、たかをくくっていた賠菌漫は顔面にばっちりくらった。

「ぶッ、バイバイ金─────!!」

……そして賠菌漫はおなじみのセリフを吐いて星と化した。

「……あれ、倒しちゃった?」

 ここは邪無御時三のパン工房。

 バンバンバン! バンバンバン!
 机をせわしく叩く音が聞こえる。

「んだよ、うっせーな! 何だよ!! ちゃんと喋ろよ!」

 邪無御時三は専用の社長椅子に深く腰掛け、机の上に脚を乗せ、組んでいた。
 すると、先程まで机を叩いていた安飯萬(顔なし)が、必死に口があったあたりを指差した。

「何? 顔がないから喋れないって? だから早く焼いてー、だって!? てめッ、依頼人(クライアント)が何イチャモンつけてんだ!! そんなこと言えるご身分だとでも思ってんのか!? ああん!?」

と、邪無御時三にメンチを切られても、安飯萬は無言の訴えを止めようとはしなかった。

「焼いて焼いてや──い──て───!! だって!? るっせーな、お前はカボチャでも乗っけてろ!」

邪無御時三にぴしゃりと言い放たれた安飯萬は、少しうなだれ気味に踵を返した。

……その後何日か、ジャック・オー・ランタン(ヅラ)の安飯萬……改め加保父萬(かぼちゃんまん)なる不審者が近所を徘徊し、真夏だというのに「Trick or Treat(マネー)?」と訊きながら一件一件家を訪問していたという。

ちなみにその加保父萬はまだ保証人になっていない一部の家で、
「あ、それならここにサインしてくれます? そしたら貸しますけど」
と言われ、安易にサインしてしまい、実はそのサインした場所は借金の保証人となることに同意したことを示すサインの欄だったため、借りた金額を上回る額の借金を抱えてしまったのは言うまでもない。

「あ、また借金踏み倒されちゃった。ま、いいや。……フフフ、安飯萬、この借金(ツケ)は必ず2倍返しにして、きっちり耳を揃えて返してもらうよ………?」

邪無御時三は不気味な笑みを浮かべて、パン作りを再開したのだった。

END.

あとがきという名の謝罪

 はいこんにちは。ず───っと小説メニューにありながら、全然リンク貼られていなかったんですが……
 お察しの通り入力作業サボってましたwwwでもこの度ちゃんと入力作業を終えることができましたので、掲載いたしました。
 ……サ○プライムローンっていつの話だよ(笑)いや、書いた当時はリアルタイムだったんですって!

 中盤で出てくるフニャフニャタイトルと、場面の変わり目のニコちゃんマークは一応自作です。公式サイトとかポップ体フォントとかを参考にしたりしてますが一応手描き。……何故かいつも使ってるお絵かきソフトで作成している私。だって使いやすいんだもの!
 タイトルは無駄に透過PNGだったりしてwwwwIE6じゃ透過されないんだよね……別に白背景だからいいけど……みんなブラウザを規定以外のものにしないとしても、せめてアップデートくらいはしてますよね、きっとそう(← 未だにIE6なんて、そんな訳……ないって信じてる……うん。

 ていうかコレ、著作権的に大丈夫なんだろうかwwwwいやダメかもしれないwww
 こ、ここはひとつ……名前は似てるけど全くの別人ってことでwwwwイラストがあればきっと目の所に黒い線が引かれているはずです! きっとそう!

 ……マジすみませんやなせ先生。本当のア○パンマンはこんなんじゃないです。もっと素敵で深い作品です。ほんっとすみません。ただの変なパロディですから!!!!!(必死)
 是非大目に見てください……不快だったら下げますんで、どうぞお申しつけください。だから訴えるだけはどうかやめてください……このような作品で人生失うのは嫌です。それくらいだったらすぐ下げますとも。ポ○モン事件みたいなことにはなりたくないです……
 なら上げるなってことですけども。でもずっと工事中なのもさ……

 ていうわけで、とにかく先生、すみませんでしたああああ!!!(土下座)

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