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何仙姑と洞賓のクリスマス

 あたり一面が銀色に輝き、六花がひらひらと舞う中、ひときわ鮮やかに映える朱塗りの建物。
「なあ何仙姑、今日は何の日か知ってる?」
 蒼天のような青い袍に身を包んだ金髪の青年が、机に肘をつき問いかける。
 その視線の先にあるのは、十六、七歳くらいの少女。艶やかな栗色の髪を結い上げ、蓮の花びらで染め上げたかのような薄紅色の衫を纏っている。
 背後から声を掛けられた少女――何仙姑は、それまで棚を物色していた手を止め、青年の方を振り向く。花芯のような鮮黄色の裳が、彼女の動きに合わせてひらりと舞う。
「……洞賓、何であんたがここにいるのよ。ここは私の廟よ?」
 青年の質問には答えず、腰に手を当てため息混じりに問い返した。
 すると、彼は突然立ち上がり、ぐっと拳を握った。
「そう、今日は公暦12月24日、クリスマスイブ!! でも一緒に過ごす殿方がいない? そんなことだろうと思ったよ、だから俺がわざわざ来てやったのさ」
 突然の出来事に目を丸くしていた何仙姑だったが、何も答えていないというのに勝手に話を進められていることに気づき、慌てて口を挟む。
「ちょっと、人の話聞きなさいよ」
 洞賓は拳を解いて腕を組み、片眉をあげてにやりと笑った。
「質問の答えにはなっていただろう? それともひょっとしてクリスマスのこと知らなかったりして?」
 人を小馬鹿にしたような態度に、何仙姑はいてもたってもいられずムキになって答えた。
「ば、バカにしないでちょうだい。キリスト教の祭日でしょ? 救世主の降誕を祝うとかなんとか」
「まぁだいたいあってる」
「恋人同士で過ごすというのは東洋の勝手な風習であって、西洋では家族と過ごすものよ」
「じゃあ俺と家族になってく……」
 すかさず彼女の白い手を握ろうとしたが、何仙姑はさっと振り払いそっぽを向いた。
「私にとっては信者が家族のようなもの、だから今日はこの廟で信者と共に過ごすわ。という訳で邪魔よ、帰りなさい」
 冷たくあしらわれた洞賓は不満タラタラといった顔で背中を見つめる。
「何だよ~。せっかく妓楼にも下界の女の子に声掛けにも行かずにここに来たっていうのに。冷たいなぁ」
「そんなことするつもりだったの……」
 洞賓のだらしなさっぷりにいつものことながら呆れかえる。
 さすが酒色の輩。
 まぁ、そんなことされるよりはここにいてもらったほうがいいけど――と口にしかけたところ、コンコン、と軽快に扉を叩く音がした。
「誰かしら」
 何仙姑が扉を開こうとすると、洞賓が慌ててそれを制した。
「おい、ちょっと待て。盗人かもしれない」
「律儀に扉を叩く盗人がいるものかしら」
「それ以外にも何かこう……あるだろう。とりあえずここは俺に任せておけ」
 そこまで警戒しなくても、とつぶやく何仙姑を尻目に、洞賓は背中の剣を抜いた。その動きに合わせて髪紐がひらりと翻る。剣を持った手を背中に回し、外の様子を伺いつつ、おそるおそる扉を開いた。
 そこには――
「ハァーイ、洞賓。元気にしてる?」
「げ、牡丹」
 そこに立っていたのは、飄々とした雰囲気をもつ絶世の美女であった。
 豊かな漆黒の髪を右に結い上げ、数多の笄やかんざしで彩り、残りの束は惜しげもなく背中に垂らしている。
 雪のように美しい白色の衫、ふわりとなびく同色の裳。牡丹をあしらった胸当ての間から、豊満な胸元がちらりとのぞく。
 陶器のように白い肌、桃色に上気した頬。紅い唇からは、白い歯がこぼれる。
 傾国傾城、沈魚落雁。その姿はまさに解語の花――
「あ、牡丹さん。お久しぶり」
 何仙姑が洞賓の後ろからちらっと顔を覗かせると、牡丹と呼ばれた女性は洞賓を押しのけ何仙姑の手をぎゅっと握った。
「何仙姑! その節はどうも。貴女と李老師がいらっしゃらなければ私は今ここにおりませんわ」
「いえいえ、こちらこそ。あの時はとても楽しませてもらって……ぷぷ」
「……」
 楽しそうに話す二人とは裏腹に、洞賓はひとり顔をひきつらせ立ち尽くしていた。
 彼女の名前は白牡丹。洞賓、そして何仙姑とは浅からぬ縁がある。
 それは唐の頃、妓女をしていた牡丹に洞賓が一目惚れし、入れあげた。それをからおうと李鉄拐と何仙姑が牡丹に知恵をつけ、そこから彼女が成仙することとなったのだが……詳しいことは彼のためにも割愛することとする。
「ぼ、牡丹。今日はどうしてこんな所にきたんだ」
「あっ、ちょっと、それは私の台詞! ここは私の廟!!」
 牡丹は二人のやりとりを見て、目を細める。
「ふふ、仲睦まじいことで。羨ましいですわ」
「仲睦まじくなんかない!」
 何仙姑が必死に否定するのがそんなにおかしかったのか、牡丹は口元に手を添えくすくすと笑う。
「冗談ですわ」
「いや、冗談なんかじゃな……ぐはっ!」
 変なことを口にしかけた洞賓のみぞおちに、何仙姑の拳が直撃する。
 牡丹はそんな殺伐とした光景をもいとおしそうに眺めながら、花のような笑みを浮かべて切り出した。
「今日は洞賓、貴方に用事があってこちらに伺ったのよ。お屋敷の方に伺ってもいらっしゃらなくて、どうしたものかと途方に暮れておりましたところ、お弟子さん方がこちらではないか、と」
「……」
 あいつらめ、と顔をしかめる洞賓。
「あんたの行動は筒抜けってことね」
 にやにや笑みを浮かべていると、牡丹はこちらを振り返り申し訳なさそうに微笑した。
「そこで何仙姑。二人だけでお話ししたいので、少々席を外していただけるかしら」
 突然の申し出に驚いたが、そういうからには何か大切な話があるのだろうと、ためらいつつも相槌を打つ。
「え……ええ」
 終わったら声をかけてちょうだいね、と言葉を残し、何仙姑は廊下へと出た。
(いったい何の話なんだろう……)
 わざわざ席を外してというのだから、私がいては都合の悪い話なのだろう。ふたりきりで話す必要のある、話――
「……それにしても冷えるわね。羽織るものでも持ってくればよかった」
 夜の冷気が肌にしみる。
「本堂の方が、ちょっとばっかり暖かいかしらね」
 ぎゅ、と襟元をたぐり寄せ、本堂の方へ向かって歩き出した。

「終わりましたわ」
 背後からよくとおる鈴のような声がして、座布団の上でちぢこまっていた何仙姑は慌てて立ち上がった。
 牡丹は裳裾をつまんで軽く会釈する。
「席を外していただいたこと、感謝いたしますわ。もうひとつわがままを言ってもよろしいかしら」
「私にできることなら」
「彼を連れていってもよろしくて?」
 思いもよらぬ内容に、何仙姑は瞠目した。
「え……ええ、まあ……」
 あっけにとられる彼女に、洞賓は手を合わせて気まずそうに笑う。
「すまない、何仙姑。せっかく来てやったのにすぐに行ってしまって」
「……あんたが勝手に押しかけてきただけでしょ」
 見当違いのことを言う洞賓に、何仙姑はじとっとした視線を送る。
 牡丹は乾いた笑いを浮かべる洞賓の腕を掴んで、自分の腕を絡めた。
「では何仙姑、しばらく洞賓をお借りしますわね」
 二人はそのまま雲に乗ると、夜の闇へと消えていった。

「クリスマス、ねぇ」
 広い廟の中、ひとり取り残された何仙姑は、自室の机に突っ伏していた。
「家族といっても、もういないのよねぇ」
 確かにかつて自分には父も母も、兄弟だっていた。だけどそれははるか昔の話。
 自分だけが仙人になって、家族も知人も、友人ももうこの世にはいない。
 それらをすべて投げ打ってでも仙人になりたいと願ったのだから、この状況はしかるべきものなんだけど。
「私もまだまだ修行が足りないわね」
 自分にもまだこんな感情が残っていたのか。何仙姑はふっと自嘲した。
 ――こんなとき洞賓なら『家族がないなら作ればいいじゃない』と某国の王妃みたいなノリで言いそうではあるが。ていうか現にさっき言ってたが。
「いやいや、それはない。絶対にない」
 右手を起こし、手を振って全否定する。あれはあいつの頭がおかしいだけだ。男女が互いに気をめぐらせるという修行法もないことはないが、結婚する必要は全くない。
「他の六仙……は忙しいんだっけ」
 韓湘子と藍采和、曹国舅は天上の宴に呼ばれ、今頃はそのたぐい稀なる芸を披露しているところだろうか。李鉄拐と鍾離権は今宵も碁を打ちつつ盃を酌み交わしていることだろう。張果老は神出鬼没すぎて何してるかわからない。
「……全然忙しそうじゃないわね。特に残りの三人」
 碁に関しては少々腕に覚えがあるし、あの二人に混ぜてもらえばよかったかもしれない。
 もしくは西華に赴いて、女仙達と過ごすという選択肢もあったはずだ。こんな日だから、どれだけの女仙が自分に付き合ってくれるかどうかわからないけど。
「それにしてもどういう要件だったのかしら」
 今日はクリスマス。ふたりきりで話す必要のある話。彼らは今でこそあんな感じではあるが、かつて牡丹が人間だった頃、あの二人はお互いに心を通わせていて――
「まさか、そんなわけないわよね」
 よからぬ考えが浮かぶ。何仙姑はそれを打ち消すように頭を振った。
 あの一件で牡丹はめでたく仙人となることができたが、洞賓は道友達に「酒色の輩」などとからかわれ、さらに精を漏らすという仙人としてあってはならないことをしてしまったがためか、いまだに彼女と顔を合わせると気まずい顔をする。彼女の前で時々気のある言動をすることもあるが、あれはいつものノリだろうし――
「ま、あいつらが何してようと私には関係ないか」
 ひとりで部屋にこもっていても、変なことを考えてしまうだけだ。気晴らしに外に出てみよう。
 何仙姑はおもむろに立ち上がり、扉を開ける。乾いた冷気が暖かい部屋へと吹き込む。
「おおっ、寒っ。帰ってきたらお茶でも淹れよっと」
 椅子にかけていた薄衣を掴み、入り口へ向かって足を踏み出した。

「何仙姑? 起きてるか?」
「ん~……あれ、洞賓?」
 何仙姑が身体を起こすと、何かがごろりと音を立てた。びっくりして机を見ると、横に倒れた茶器と菓子器、そして皺のよった本。
 そういえば外の散歩から帰ってきた後、香りのよいお茶を淹れ、菓子をつまみながら読書してたんだっけ。
 どうやら知らないうちに寝てしまったらしい。
「寝てたのか……まあこんな時間だし仕方ないか。起こしてしまってすまない」
 時計を見ると、すでに丑刻を回っている。
「えっ!? もうこんな時間!?」
「思ったより手間取っちまった。牡丹がなかなか帰してくれなくてさ」
「え、帰してくれな……え?」
 動揺する何仙姑をよそに、洞賓は机の上の本をつまんで顔をしかめる。
「これ、俺が貸してやった本じゃねえか……まぁこの程度ならいいけど。借り物なんだから気をつけろよ」
「……寝ている時のことなんて知らないわ。不可抗力よ」
「そういうのも制御してこそ一人前の仙人だと思うんだが。それにこんな時間に菓子とか……太るぞ」
「あんたにだけは言われたくない」
 何仙姑はむっとしつつも、おそるおそる気になっていたことをぶつけた。
「で? 結局どうだったわけ? 私には言いたくないことだったりとか、そ、その……言うのをはばかられるようなことだったら別にいいんだけど」
 急によそよそしくなった何仙姑の様子を訝しがる洞賓であったが、やがてその意図を得てニヤリとした。
「何だそれ。……あ、ひょっとして誤解してたりして?」
「誤解?」
 洞賓は椅子を引き、腰を据えて語り出した。

『――で、牡丹。何仙姑を追い出してまで話したい話って?』
 何仙姑が出てほどなくして、洞賓は牡丹に尋ねた。
『何だと思いまして?』
『年頃の男女がふたりきりでやることといえば、一つしかないと思うが?』
『ふふ……年頃、ね』
 牡丹は怪しげな笑みを浮かべながら洞賓の背後にまわり、後ろから抱きつく。
『サンタさんの格好でプレイするのも一興だと思わない?』
『サンタ!?』
 瞠目する洞賓に、牡丹はくすりと微笑む。
『貧しい子ども達に食べ物を配ろうということになりましてね。貴方も一緒に、どう?』

「……え、慈善活動?」
 予想外の話に、何仙姑はきょとんとした顔で洞賓の顔を見つめる。
「クリスマスだから奉仕しようぜ、ってことらしい。素女を中心に何人かの女仙が参加する予定だったそうだが、どうしても人手が足りない、って言われてさ」
「確か牡丹さんは今素女さまのもとでさらなる修行を積んでるのよね。人手が足りないのなら、私にも言ってくれればよかったのに」
 何仙姑が残念そうに言うと、洞賓はあらぬ方向を見て苦笑した。
「はは……それが、な……」

『確かに俺は人々を救うために下界に留まってる。けどなんか違くね? それってただの慈善活動じゃね?』
『ボランティアも立派な救済じゃなくて? 変な人のふりしてこっそり人々のためになるようなことをするだけが救済だとでも言うのかしら?』
『俺の流儀を全否定するなよ……』
 牡丹はぐいと顔を寄せ、耳元でささやく。
『そういえば、いつか素女さまの侍女に手を出したことがありましたわね? 酒宴で酔ったあげく、嫌がる女仙に……』
『うわああああああ!!!』
 彼女のいわくありげな発言に心当たりでもあるのか、洞賓は思いっきり飛び上がった。
『あ、あれはむこうから寄ってきてだな……』
『あの時の心の傷が癒えなくて、今でも悩んでおられますのよ』
『ウソだろ……お前はそうやって何度も引き合いに出してきて、その度にちゃんと償いをしてきただろうが』
『ふーん。そんなことおっしゃるのなら、西王母に奏上してしまおうかしら?』
 口元に人差し指をあて流し目で微笑む牡丹に、洞賓は慌てて手を振った。
『うわああああああやめろ!! わかった! わかったから!!』
 首尾よく承諾を得た牡丹は、まるで男を誘うような目つきで、妖艶に微笑む。
『ふふ、それでよくってよ。今宵は忘れられない夜になりそうね、洞賓?』

「……なるほど」
「すんなり納得するな」
 洞賓は頭をかかえながら低い声で言った。
「ていうかまたその件で脅されたの? どれだけ前の話なのよ。時々思い出したように引き合いに出されてはこき使われてる気がするけど」
「………覚えてない」
「きっとこの先もこんな感じでいいように使われるわね」
 だいたいその時の記憶すら曖昧で、本当にそんなことしたかどうかもわからないんだが。
 はあ、と溜め息をついてから、洞賓は気になっていたことを問うた。
「で? 結局どういう誤解をしてたんだ?」
 ぐいっと何仙姑に顔を寄せる。
 急に距離が近くなり動揺した何仙姑は、思わずのけぞり視線をそらした。
「べ、別に」
 仙人らしからぬ初々しい態度に、思わず口元が緩む。
「俺達がいちゃこらしていたとでも思ったんだろう? あいつとは二度とごめんだ。特に修行を積んだ今は逆に精気をことごとく吸い取られちまいそうだし」
「ふん、そんな変なこと考えるわけないでしょ。どうせそんなことだろうと思った」
「どうだかな」
 視線をそらすも、じっと顔を見つめてくる洞賓。その澄んだ金色の瞳に、すべてが見透かされていそうで。
 自分の考えていたことを悟られまいと、何仙姑は話題をそらした。
「……で、何でわざわざ戻ってきたのよ。屋敷に戻ればよかったじゃない」
「これを渡すの忘れてて、な」
 少し照れくさそうに箱を突き出してきたので受け取ると、中に入っていたのはとろりとした照りを持つ紅と緑の翡翠が散りばめられた銀のかんざし。
「……クリスマスカラー……」
「い、言うな。それが一番お前に似合うと思ったんだよ」
 きまりが悪そうな顔をする洞賓を見て、思わずふ、と笑みがこぼれる。
「……もう遅いでしょ。今日はここに泊まっていきなさいよ」
「えっ!? ちょっと待て色々な準備が」
 いきなり慌て始めた洞賓の心中を察し、冷たい視線を向ける。
「何よからぬこと考えてんのよ。私の部屋にとは言ってないでしょ? あんたなんか馬小屋で十分よ」
「そんな~。キリストじゃあるまいし」
「ちょうどクリスマスだしいいんじゃない?」
「老体にはすきま風が辛いんじゃよ……」
 洞賓は背中の剣を杖に変え、腰を曲げて杖をつきながらがたがたと震えてみせた。
「あら、妓楼に行くとか下界に降りて女の子をひっかけるとか言ってた人が言える台詞かしら」
「うっ……」
 老人のふりをするのも忘れ固まる道友を見て、何仙姑はふふ、と口元を緩めた。
「ま、朝起きて氷漬けになってたら寝覚めが悪いから、土地公の部屋でも使いなさいよ。ちょうど今日は忙しくて不在みたいだし」
「いいのか!?」
 立ち込めていた雲が晴れたようにぱっと顔を輝かせた。
「今回だけだからね」
 釘を刺し、棚の物色作業に戻ったのを見届けてから、くるりと壁の方を向き、欲望に塗り固められた笑みをこぼした。
「ふふふ……これなら寝静まった頃にこっそりあいつの部屋に行ける……」
 すると、何仙姑はあ、と何かを思い出したような声をあげた。
「誰かさんが夜這いしてきちゃいけないから、鍵かけてお札でも貼っておこうかしらね」
 洞賓はがっくりと肩を落とした。
 千年以上も一緒にいる女仙様には、色仙の思惑など全てお見通しである。
「仕方ないからひとり淋しく部屋にこもるとするか……替えの下着あるかな」
 その落ち込みぐあいがあまりにも酷くて、何仙姑の口元が思わず緩む。
「洞賓」
「ん?」
 部屋を出ようとしていた洞賓は、何仙姑に呼び止められけだるそうに振り向く。
「かんざし、ありがとう」
「おう」
 洞賓は片手をあげ短く返答すると、ろうそくの灯りがともる廊下へと姿を消した。

 ぱたり、と扉の閉まる音がするのを聞き届けてから、何仙姑は棚から木箱を取り出した。
 中には色とりどりの宝釵や笄、瓔珞や釧といった装身具が丁寧に収められている。
「こんな高そうなものばかり……いったいどこから工面してくるんだか」
 今までの贈り物の多さと豪華さに苦笑しつつも、眺める彼女の表情は穏やかであった。
 先程のかんざしを手に取り、扉の方へ視線をうつす。
 ……メリークリスマス、洞賓。
 そう心の中でつぶやいた何仙姑は、木箱にそっとかんざしをしまった。

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